はやぶさについて(2) -理学・工学ミッションとしてのはやぶさ-

前回はやぶさのエンターテイメント性について触れたが、今回ははやぶさの本来の目的である理学・工学ミッションと、それを支えた技術的側面について触れます。

はやぶさの目的を一言で言えば、「小惑星サンプル・リターン工学技術実証探査機」です。はじめから、理学ミッションを主軸とするのではなく、今後の惑星間往復航行や小惑星サンプル・リターンのための技術確立のための工学的実証がミッションの主軸となっています。ひらたく言えば、「3 億キロ離れた直径たった 500m の小惑星に行って石や砂を拾って帰くるための技術を実機で検証する」ということになります。

はやぶさの主要ミッションは以下のとおり。

  • イオンエンジンによる惑星間航行、およびイオエンジンと地球スイングバイの併用による加速技術の確立
  • レーザー光度計等搭載センサからの光学情報による自律型航法で、小惑星の観測および着陸
  • 小惑星からのサンプル試料採取
  • サンプル試料の入ったカプセルを大気圏へ突入させ、地表で回収

なので、現在回収したカプセルにイトカワのサンプル試料が入っているかどうかが注目されていますが、たとえ入っていなかったとしても、目的の大半は達成していることになります。もちろん、サンプルが入っていたらとんでもなく凄いけど。

人工衛星によるスペースミッションは、打ち上げ後は基本的にメンテナンスができないため、限られたペイロードと予算のなかで、いかに不測の事態に対応できる冗長性とシナリオを用意できるかが重要になります。今回で言えば、姿勢制御用エンジン(化学スラスタ)全損の場合の姿勢制御方法や、さらに2台のイオンエンジンのイオン源と中和器を組み合わせて1台のイオンエンジンとしての運用等、4つのイオンエンジンが故障した場合をも考慮した仕込みがあったため、なんとか帰還できました。これらは、スタッフの高い技術力を証明していることになると思います。

あと、今回個人的になるほどなぁ、と思ったそのほかのキーワードとしては、以下のようなものがあります。

  • 宇宙検疫:太陽系からのサンプル・リターンでは、地球外の怪しい物質や生命体を持ち込まないようにする検疫も義務付けられているそうです。
  • キャリアリサーチ運用と1bit通信:はやぶさに搭載されている発信機はクォーツであり、機体の温度が変動すると、発信周波数が変動してしまう。そのため、受信する側は幅広い周波数を受信し、スペクトラム解析を行うことによりはやぶさからの信号がきているかどうか確認する。また、通信困難な際に地上から質問を送信し、はやぶさからはYes/Noの1bit信号のみを受信するのが1bit通信。いずれも、過去に失敗した火星探査機「のぞみ」の経験が活かされているとの事。

※この文章も前回同様、今後おそらく書き直します。